東京地方裁判所 平成8年(行ウ)293号 判決
原告
清水勉(X)
右訴訟代理人弁護士
児玉晃一
(ほか一九名)
被告
東京都知事(Y) 青島幸男
右指定代理人
江原勲
同
矢野照雄
事実及び理由
第五 当裁判所の判断
一 被告が非開示の理由とするところは、本件対象文書に、本件条例九条八号に規定する「その他実施機関が行う事務事業」に関する情報で、開示することによって「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」が記載されているということである。
ところで、本件条例九条八号は「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画」と並列して「その他実施機関が行う事務事業」を掲げ、更に、これらに関する情報のうちで、開示した場合に同号に列記された不適切な事態が生ずるものを非開示の対象とし、右の不適切な事態の一類型として「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」を規定する。そこで、本件対象文書に「その他実施機関が行う事務事業」に関する情報で開示することにより「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」に該当する情報が含まれているか否かを検討すると、本件対象文書に含まれる情報は、出納事務に関し、公金の使途、目的、支出した金額及び日時等、都の財政の適正を期するために必要とされる基本的な情報であり、出納事務自体は、これに関する情報を開示することによって関係当事者間の信頼関係を損なうことがそれ自体として客観的に予想される事業であるとはいえないから、特段の事情がない限り、本件対象文書が、「関係当事者間の信頼関係」を損なうおそれの有無を配慮すべき「その他実施機関が行う事務事業」に関する情報を含むものと解することは困難である。
また、実施機関に属さない部局において作成された公文書について、客観的に非開示事由がある場合に、これを看過して実施機関が当該公文書を開示するときは、普通地方公共団体内部の組織間における信頼関係を害する事態を想定できないではないが、関係組織間における十分な意思疎通の下に端的に当該非開示事由をもって非開示の理由とすれば信頼関係を損なうものではないのであって、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにした本件条例の目的に照らしても、当該公文書について客観的な非開示事由がないのに、それを作成した部局の意思に反することのみをもって、本件条例九条八号に規定する「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」に該当すると解すべきものではない。
そうすると、本件対象文書が、実施機関である知事(出納長室)が保管し、かつ、本件条例二条二項に該当する公文書であることは、当事者間に争いがなく、被告は、本件対象文書が関係当事者間の信頼関係を損なうおそれのある事務事業に関する情報に該当すると解すべき特段の事情又は他の非開示事由を主張、立証しないのであるから、本件決定は取り消されるべきである。
二 この点につき、被告は、本件対象文書については都議会が開示又は非開示を決定する権限を有すること、議会局の意思に反する開示は都議会の自主性、自律性を侵害するものとなるとの議会局長の意見に従ったことを主張する。
しかし、公文書の開示請求は、本件条例において創設された都民の権利であり(同一条)、その権利の内容も本件条例によって定められるものであるから、本件対象文書の開示又は非開示を決定する権限が都議会にあるとし、又は普通地方公共団体における知事と議会との独立、牽制関係から、議会の判断を尊重すべしとするのであれば、本件条例を制定した都議会において、都議会を実施機関とするか、あるいは都議会において作成した公文書を開示の対象から除外することも可能であったというべきである。ところが、本件条例は、同二条二項に規定する公文書については、それを管理する実施機関に開示又は非開示の判断を委ねているのであるから、当該公文書を作成した部局が実施機関でない都議会に属する場合であっても、同項に規定する公文書に該当する限り、その開示又は非開示の判断を実施機関に委ねたものと解するほかないのである。
三 以上によれば、本件対象文書を開示しないとした本件決定の取消しを求める原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 水谷里枝子)